今、騒がれている「IoT」の本質とは
経営者が気にかければいけない スタートタイミングとビジネスの有効性
「IoT」「Industry4.0」は他国や大企業だけの話ではありません。どのように、ものづくりの世界は変わっていくのか。
基礎的な見解を示すとともに、企業は今までとは何が異なり、何を準備し始めていけば良いのかをご提案します。
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一時的な盛り上がりではない「IoT」・「インダストリー4.0」
今年になってIoTというキーワードが急激に脚光を浴び始めている。昨年まではビッグデータやクラウドというキーワードが盛んに唱えられていたが、次第にIoTやAIに変化してきている。これらの概念は何も急に出来上がって来たものではなく、ドイツの国策であるインダストリー4.0に世界中から注目が集まるとともに、一躍スターダムのトップに躍り出たといったところであろうか。これらの技術が持つ可能性の理解と、応用への創造が急速に進んでいる。
一般にトレンドというものは、一時的な盛り上がりを見せた後、急激に萎んでいくことが多い。時に絶滅さえしてしまうこともあるが、今回のIoTはそういうものとは違う。IoTは、これまで 長きに渡って産業界を牽引して来た「エンジン、オイル、エレクトロニクス」といった産業の3大革命に匹敵し、これから数十年に渡って産業界を牽引していくであろう原動力になると言われている。影響力を持ちそうな領域は非常に幅広い。我が国の基幹産業である電機、自動車をはじめとする製造業にとどまらず、流通業、運輸業、建設業、農林水産業、医療、教育、そしてITと…黎明期ながら既に全産業に対して網羅的な影響力を持ち始めている。それゆえ産業革命といって憚らない。現に、経産省などの平成28年度予算要望の重点課題の一番に掲げられている テーマであり、民間企業も見逃す訳にはいかない。
IoTで変わり、得られる5つのメリット
それでは、IoTの本質とは一体何であるか考えてみたい。IoTは、Internetofthingsの略で「モノのインターネット」と訳されている。簡単にいえば、「モノが人間を介さずに直接インターネットとつながる」ことを意味している。これまで人間が必要と考えるデータを細心の注意を払って選択的に入力していたものを、モノにダイレクトに掛け値なく入出力させようと試みである。これによって何が変わるのか。
従来のITの有り方と比べると、以下の5つのメリットがある。
Volume … 大量のデータが得られる
Variety … 多様なテータが得られる
Velocity … 高い頻度でデータが得られる
Veracity … 誠実で正しいデータが得られる
Value … 新しい価値を産み出す
どこかで聞いたことがないだろうか。実は、これらは昨年までビッグデータの性質として唱えられていた5Vとまったく同じである。モノ(機械やコンピュータ)は人間と異なり、疲れない、飽きない、ミスをしない、文句を言わない、仕事を選ばないことから、こういったメリットが得られやすい。IoTはビッグデータへの取り組みと非常に関係が深い。
ラインの最適化、予防保全…今から始まるデータ収集・分析
IoTで機器と機器を繋ぎ、それらの膨大なデータを収集し、正しく活用することで、これまでのサービスを一変させることができる。わかりやすく言うと、工作機械の稼働状況から資産の投資効果が計算できたり、通路の往来や自動ドアの開閉から工場レイアウトの問題を浮き彫りにしたり、センサーから24時間体制であらゆるデータの動きが採取・蓄積できるようになる。そして、異常の検知や傾向の把握、因果関係/相関関係の理解など、データから多く得られることがある。正しくシステムや設備を使いこなすことだけでなく、データから知識を得て新しい仕事に役立てることができる。ビッグデータは宝の山とも言われる。情報がヒト、モノ、カネに勝るとも劣らない経営資源であることを、もう一度思い起こさなければならない。
たとえば、製造ラインにおいてもIoTの活用は重要である。工作機械メーカーから見れば、工場で使われる組立機械などはユーザーと同じ製品に該当する。各種機器の稼働状況をデータとして逐次収集できれば、ラインの最適化・予防保全などに活かすことができる。しかし、今はまだ工場のネットワーク環境を、厳しいセキュリティの管理下におくことで設計データの機密保持に重点をおいていることが多いのではないだろうか。また、既にデータ活用の検討を始めた段階にあっても、機械毎のデータ形式が一様ではなくデータ活用が容易ではないと考えられる。
メーカーが同一機種のデータを複数工場で収集したり、データを工場単位で一括して分析するなど、IoT活用のアプローチも色々とある。
これ以外にも、仕掛品の管理にIoTを活用することもできる。
非破壊検査など、仕掛品も各種センサーによって常時監視されているが、その結果を収集・保管することにより歩留まりの傾向を見たり、発売後に故障した製品の製造状況をさかのぼって分析することで、検査時の値の変更や各機械のキャリブレーションなどを改善し、製品の品質向上に結びつけることが可能である。すでに一部の車メーカーは、どの機械で穴を開けたのかなど、データの保存し始めて活用しはじめているそうだ。
とはいえ、IoTやインダストリー4.0の取り組みは始まったばかりであり、現在はまだまだ黎明期の段階にある。これを行えば誰もが必ずメリットを得られるという様な代物ではない。しばらくの間は試行錯誤が続き、これから成功事例だけでなく、失敗事例もたくさん出てくることだろう。しかし、それぞれの業種、業態、サービス形態や目的に適した新しいアイデアというものは一朝一夕に出来るものではない。日和見が功を奏すこともあるが、そうこうしているうちに時が流れ、他社に遅れを取ってしまうこともある。黎明期であるからこそ挑戦すべきではないか。